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SAKURA千年紀

【羽田圭介】コンテクスト・オブ・ザ・デッド

 初羽田圭介。彼のことは作品で、というよりテレビのバラエティで知った。芥川賞受賞という栄光を手にしたにも関わらず、話題は同時受賞した又吉直樹に傾きがちで、売り上げに少なからず差が出たのだとか。バラエティ対応力があるのか台本だったのか定かではないが、はっきりと「本買って!」と嘆いていた彼に好感を持っていたのは確かだ。好感を持ったくせにスクラップ・アンド・ビルドをスルーした私は、彼からしてみりゃ一番タチが悪いタイプだろう。

 今作を読むに至ったきっかけは、まず装丁が派手だったから。何じゃこれは怖い顔。と覗き込んだらゾンビものだって。へえ面白そう。え、羽田圭介って芥川賞の人? 芥川賞の人ってゾンビとか書くんだ読んでみよう……。予想だけど、出版側がこうやって売り出していこうと想定した道をまんま辿った気がする。

【あらすじ】

 突如街中に出現した青白い顔をし、人を噛み、時に食べる人間。変質暴動者いわゆるゾンビ。世界中でにわかに増えだしたゾンビの存在を認識しながらも、人々は生活を続け、やがて流されるように安住の地を目指す。市役所の職員、女子高生、小説家志望の青年、返り咲きを狙う小説家、復活した人気作家、編集者。それぞれの視点から描くゾンビサバイバル。



 言いたいことはすごくわかる。結局ゾンビっていうのは大きな意味での例えで、この際襲ってくるのはゾンビじゃなくてもいいわけで。ただ死からの蘇りだと一番ゾンビがイメージしやすい。携帯電話の普及によって他人の意見も簡単に自分の意見にすり替えられる。大多数の意思を簡単に手に入れることによって、あたかも自分で考えたように脳が勘違いをする。そもそも自分で持っていたものなど何もなく、過去を踏襲することで自分の保身をはかったりする。
 思考停止=死んでいると同義。→そういう人がゾンビになる。


 というテーマを、読み終わってみると頭のてっぺんから足の先まで描いていたんだということに気付く。なるほどとも思うし、複数の登場人物の動きを追うのは読み応えがあった。が、肝心の登場人物がわりと浅い。作家や編集の場面はみっちりと書き込むが、市役所員や女子高生のくだりは凄くあっさりしててムラがある。

 後半Kと須賀が静岡に行く展開から物語はいよいよ混沌を極めるのだが、この辺りからいよいよもう全員作家か作家志望で固めりゃ良かったのになという内容になってくる。当てはめたいテーマと盛り込みたい要素と、一応話作りの定石で用意した人物たちとのバランスがとれていない。文藝について語りたいのか、それとも作家に限らず人間に対して警告しているのか、どっちもなんだろうけど。

 作家としての感情しか知らない人が書いた群像劇風文藝論と人類への警鐘。何とも言いがたい作品という印象を持ったけど、きっともっと奥深いところまで考えて書いてるんだろうなあ。

 頭が及ばなくて無念だ。

by kumatalow | 2017-02-03 02:05 | 書籍