里見八犬伝
日本映画チャンネルで「里見八犬伝」を見た。

里見八犬伝というと誰もが滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」を想起するだろう。
仁、義、礼、智、忠、信、孝、悌の八つの宝玉に導かれし戦士たちが、自らの因縁と戦っていく物語。
抽象的な言い方になったが、膨大な長編小説であるため、もはやどんな物語と一括りにすることは大変困難である。


原作を知っている人は映画を見てあまりの違いに驚き、映画から興味を持った人は、同じように違いに驚くだろう。


私は映画から入った人である。
小さい頃に父が夜中に見ていたのをこっそり眺めた記憶がある。物語は丁度クライマックスのシーン、道節が門扉の前で血だらけになりながら巻物攻撃を繰り広げる場面であった。
血みどろの道節に興奮した私はどうにかして最初から全部見たいと思った。昔から人が死ぬ物語が好きな奴だったのだ。

願いが叶ったのはそれから数年経った中学の頃。ビデオが普通に家にあった。何気なく再生したらあの日見たかった里見八犬伝だった。
肝心の道節のシーンは覚えているより大したものではなかったが、全部通して見ると中々の面白さにすっかりハマッてしまった。


原作の勧善懲悪な、どこか勇ましい雰囲気とは違って、映画の八犬伝は暗い。自らの運命に翻弄された八犬士たちがある意味死に場所を求めて戦っていくのである。そんな薄暗い連中をよそに、親兵衛と静姫だけは愛と生命力に満ち溢れて光り輝き、最終的に物語を軽いラブロマンスに収めるのに一役買っている。


まず、この静姫という女がそもそも原作との相違である。

原作は八房いう犬と結婚させられた伏姫という姫がおり、部下が放った鉛弾をもろともに受けた際、八つの玉が飛び散り、数年後各地に玉を持った子供が生まれてくるのである。剣士たちは犬と伏姫の子供と言えなくもない。不思議な運命と共にある。


映画は伏姫が亡くなってから何代か後の設定になっている。剣士たちも犬から生まれたというには遅く、また自覚のないような奴もおり、あまり心が綺麗とは言えない。


特に親兵衛は原作だと子供であるのに対し、映画は若かりし頃の青年真田広之だ。代わりに荘助が幼い少年になっている。


更には、原作が皆働きを認められ一国一城の主になっているのに対し、映画はほぼ全滅という点。よくある「俺に構わず先に行けー!」を急ピッチでこなす。


どちらがどう、と言われれば原作には忠実ではない点あまり映画を評価したくはないが、実はこの映画の原作は馬琴ではなく、鎌田敏夫という人の「新・里見八犬伝」という小説を原作としている。


鎌田さんの書いた八犬伝は新訳という感が強い。かなりのエログロであるらしい。


死ぬから面白いとは言えない。が、物語の強弱は鎌田版の方がある気がする。
原作は全くポジティブで人のいい八犬士たちが一生懸命真面目に戦って誉めあっているうちに、みんなで平等に出世する。


それよりはまだ、玉に選ばれ、導かれながら翻弄される方が特異性がある。
原作のいい人過ぎるのもある意味特異性たっぷりだが、どうしてもお前らでなくてもな…という部分が抜けきらない。


私は犬塚信乃が好きだ。原作では信乃を中心として話を回すことが多いから、一応主人公は信乃だろう。
現八との屋根の上の対決は超有名なシーンだが、映画版の現八が山頂より薄い空気であり、親兵衛が主人公で信乃がシスコンの脇役なので皆無。酷な話だ。



シスコンの信乃も悪くはない。化粧ベタベタの京本政樹が妹の死に怒り狂いながら毛野(毛野も原作は女形でれっきとした男なのに、どうやら鎌田版はふたなり設定であるらしい)と乱闘し、大角らが帰還するや何事もなかったかのように刀を収めるシーンが大好きだ。


ここまで違うともはや名前だけ借りた里見八犬伝の二次創作じゃないかと思いたくなる。
唯一の共通点といえばそれぞれ与えられた玉の特性が体現できていないところだろうか。


映画版で結婚式の来賓を殺戮しまくった信乃は一体なにが【孝】なのか、山頂より薄い空気でほとんど敵でしか登場しない現八はどの辺りが【信】なのか。志穂美悦子のアクションだけが見せ場の毛野は【智】だっただろうか?母親を殺されても平然とし、なにがあっても脇役の域を出てこようとしないムスカの【礼】はどこで見出だせば良かったのか。


原作は原作でまた気持ち悪いばかりに揃いも揃っていい人で、もしや八つの玉は一人一つずつではなく、一人八つずつ64玉与えられてるんじゃないかと勘ぐりたくなるほどキャラクター被りまくり。


親兵衛と静姫の無駄なラブシーンを盛り込みながら、当時にしては長い二時間越えの超娯楽大作である。この他にも書ききれないほどツッコミ所が満載で、上出来ではない。


しかし当時面白いと感じた作品には思い出補正がついてしまって、馬鹿にしながらもついつい目が離せない。
ダサいBGMに勿体無いキャラの使い方、決戦前におめかしをしてしまうところ。それら全てがダサダサなれど、今日までの私の創作に存分に生かされている。




全体として失笑もの、人には全くオススメできない映画だ。誰にだって一つや二つある自分だけの思い出作品というやつだ。


年をおうごとに失笑レベルが自己新を記録していくが、荘助のシーンはいつもちとホロリときてしまう。

今の言い方をするとショタ枠である。親兵衛の代わりにショタを担う荘助は小文吾とワンセットで紙より薄い存在だ。


最後の戦いで身代わりになって出オチした現八に駆け寄って涙したのは彼だけ。


岩を支える小文吾を助け、目前から襲ってくる敵を器用に切り伏せたところを背中を向けてしまい、殺られて岩になる(意味がわからない)場面は悲しい。私は少年が好きなので少年の頑張りに弱い。


もっと注目して然るべき場面かと思うのに、相変わらず残りの犬士たちはスタコラサッサと進軍し、挙げ句の果てには岩になった荘助と小文吾をまるでホラー映画のような音楽と演出で「怖いだろ?」とばかりに映して場転させるのだ。酷い。


自分達の演出した魅力を全く把握しないまま斜め上な解釈とピントズレしたクライマックスで大団円を迎えるこの作品、監督は深作欣二である。



懐かしかった。今でも楽しく見られるぞ。
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by kumatalow | 2014-03-11 22:11 | 映画 | Comments(0)

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